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もう一つの『白昼の月のように』 ACT.#30

もう一つの『白昼の月のように』 ACT.#30

もう一つの  白昼の月のように 

 事務所を出ると、その足で智也のもとへと向かう。逸る気持ちを抑えて、地下鉄に向かって歩いていると、ポケットの中で突然、携帯が振動した。
「…何?」
 言いようのない不安に襲われて、急いで取り出すと、フラップを開く。
「はい」
「智也の容態が変わった。急いで来てくれ」
 それだけを言うと、掛けてきた相手は電話を切った。
 一瞬、何が起きたのかわからず、通話の切れた携帯をじっと見つめる。
 次の瞬間、野崎は大通りへと走り出て、通り掛ったタクシーを止めて乗り込むと
「北見記念病院へ。急いで下さい!」
 と言った。
 病院に着くと、釣りも受け取らずタクシーを降りて6階のICUに向かう。ゆっくりと上昇するエレベーターがもどかしい。
 ICUの入口のカウンターで看護師に声を掛けると
「こちらです!」
 と切迫した表情で一つの部屋に連れて行かれた。
「智也!」
 部屋に入るなり、野崎は大声で恋人の名を呼んだ。
「野崎」
「野崎君」
 雅也と母親が同時に振り向いて野崎の名を呼んだ。
「……何が…何があったんですか?」
「…………遅かったよ……」
 沈痛な面持ちで雅也が野崎に言った。
 母親はハンカチを目に宛てて嗚咽を漏らしている。
 父親は肩を落としてがっくりした様子で椅子に座り込んでいた。その背中も微かに震えている。
「……………とも…や……?」
 膝が震える。足に力が入らなくて崩れ落ちそうになるのを必死で堪えて、智也が眠っているベッドへと近づいて行く。
 もともと白いその肌はさらに白く、氷のように透きとおり、桜色だった唇も、今は白っぽく見える。固く閉ざされた瞼の色は蒼く、その苦しみを表わしているようだった。
「…………とも…や………?」
 ベッドの横まで来ると、もう一度名を呼んで、胸の上に組み合わされた智也の手を解いて握った。
「……起きて……僕だよ…………智也……ねえ、起きて……おねが……だから…」
 野崎は智也の背中に腕を差し込むと、ゆっくりと持ち上げた。力なく、がくんと後ろに仰け反った智也の顔を、反対側の手で抱き起こし、二度と開くことのない瞼に口づける。そして、鼻の頭に、頬に、唇に、次々と口づけていく。しかし、投げ出された腕は、野崎に纏わりつくことはなくベッドに投げ出されたままで、まだほんのりと温もりの残る唇も、野崎を求めて開かれることはなかった。
「………なんで……なんで目を…開けてくれないの?………なんで……キス………して……くれない……とも………うっ…うっ…いや……やだ………ぼくを……おいて……行かないでよ………ともや……ともや……とも……」
 愛しい智也の体を抱き締めて、何度も何度も「起きてくれ」と頼む野崎の悲痛な声が、周りの涙を誘う。
「野崎…智也は…亡くなっ!」
「嘘だ!!!」
 雅也が言いかけた言葉を、野崎は大声で遮った。
「嘘だ!嘘だ!そんなこと信じない!嫌だ!嫌だ!嫌だ!起きて!智也!起きるんだ!」
 抱きしめたまま、智也の体を揺すって起こそうとする野崎の壮絶な姿に、暫くは誰も何も言えなかった。
 野崎は自分が許せなかった。智也を傷つけて捨てるような真似をした挙句に、病気になるほど追い詰めて、その命まで奪ってしまったのだと思った。
 どうしてあのとき京都に連れて行ってやらなかったのだろう。
 どうしてあのときキスをしなかったのだろう。
 どうしてあのとき一人置いて出てきてしまったのだろう。
 どうしてあのときちゃんと話を聞かなかったんだろう。
 どうしてあのとき「愛している」と言わなかったのだろう。
 大きな後悔の渦に野崎は飲み込まれそうになる。
 もう一度笑って欲しい。
 もう一度名前を呼んで欲しい。
 もう一度キスして欲しい。
 もう一度抱きしめて欲しい。
 もう一度愛してると言って欲しい。
「智也!智也!智也!お願い!お願い!お願い!……」
 見かねた雅也が
「野崎、落ち着くんだ!」
 と言って、野崎の肩を掴んで、引き離そうとすると
「触るな!!!」
 と叫んだ。そして、野崎は智也を抱きしめたまま体を震わせて泣いた。けれど、泣いているのに声を上げることもできない。あまりに大きな悲しみは、野崎から呼吸することを奪い去っていた。嗚咽を漏らすこともできず、ただ苦しげに泣く野崎の体の震えが伝わって、智也の体も震えている。そんな二人の姿を見て、雅也は智也も泣いているようだと思った。

 葬儀の日は、朝からよく晴れて、晩秋とは思えないほど暖かかった。
 祭壇の前の棺に安置された智也の顔は、綺麗に整えられて、うっすらと笑顔を浮かべているようだった。
 そっと棺の傍に歩み寄る。
 胸の前でかさねられた左手を、少しだけ持ち上げると、野崎はその薬指にプラチナの指輪を嵌めた。そして、智也の前で自分の薬指にも同じデザインの指輪を嵌める。
「智也、これで僕たちは永遠に結ばれたんだよ。君は僕の、僕だけのものだ。もう誰にも渡さない。そして僕は君のものだ。一生、君だけを愛することを、ここに誓うよ。だから、安心して…」
 ゆっくりと智也に顔を近づけて、野崎は智也の唇に唇をかさねる。
 床から天井まで続く大きなステンドグラスには、聖母マリアとその胸に抱かれたクリスト、その周りに三人の天使が、クリストの誕生を祝うかのように見つめている。
 そこから差し込む光は虹色に煌めき、棺の中の智也と、彼に口づけた野崎の二人を優しく包み込んでいた。







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