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風とともに

風とともに

 東京から特急に乗って二時間、普通に乗り換えてさらに二時間、駅前から一時間に二本しかないバスを乗り継いで三十分、でようやく目的地に辿り着く。
 独身で子供のいなかった伯母が亡くなったのが昨年の秋、俺にこの家を残してくれていた。
 こんな田舎の家に来ることなどある筈がないと、そのうち売ってしまう予定だったが、何の因縁かここに来る日がやってきてしまったのだ。
「広い家だな。こんなところで一人で暮らしていたなんて、寂しくなかったのか?」
 独り呟いて、家の中を一通り歩き回る。
 その家は昔ながらの瓦葺きで漆喰の壁、まるで以前映画でやっていたなんとか家の一族のような佇まいだ。部屋数も多く今風に言うと、7LDKというところか。しかも平屋建てだから、庭も合わせてその土地の広さが伺える。
 誰もいない、だだっ広い部屋。今の俺にはお似合いだと、自身を蔑むように片方の唇だけを歪めて笑う。
 そう、ここならだれにも知られずに一人静かに旅立つことができるだろう。
 あの子に詫びるには、あの子のいる世界に行くしかないと、俺は思っている。俺が殺してしまったあの子に、直接会って詫びたい。そのために俺はこの世を去ることを決意した。
「もうすぐ行くから、待っていてくれ。幸平君」
 庭に散る桜の花びらを見つめながら、俺は話しかけるように呟いた。
旅立ちの日は3日後、その日は幸平君の四十九日にあたる。
 人の魂は四十九日まではこの世にとどまると、いつか誰かから聞いたことがある。それなら、急いで逝っても向こうで会えないんじゃないかと思った。
 この三日の間に、幸平君に話せるような土産話があればと思い、俺は村の中を歩いて見ることにした。
行く宛てもないまま、この時代には珍しい砂利道をゆっくりと歩く。そろそろ日暮れが近いためか、行きかう人はなく、ポツリポツリと点在する家から夕餉のいいにおいが漂ってくる。
 日が暮れてしまうと道がわからなくなってしまうかもしれないと、踵を返してもと来た道を引き返そうと振り向くと、少し離れたところから俺を見つめている若い女性の姿が見えた。
「こんな山の中に、こんな若い女性がいるなんて…」
 呟きながらその女性に向かって歩いていく。
 長い黒髪、色白で細面の美人だ。夕暮れの風にスカートの裾を靡かせて、うっすらと微笑みながら俺が近づくのを待っていた。
「…あの…こんにちは」
 おずおずと声を掛ける。
「こんにちは」
 鈴を転がしたような声とはこういう声を言うのだろうか?高く透き通った声で挨拶を返してくれる。
「ここにお住まいですか?」
「…いえ…少し離れたところに…」
 彼女は山の上のほうを指差して応えた。
 そのしなやかな腕、細い指、彼女の動き一つ一つに胸がときめいて、俺は思わず顔を背けた。
「…失礼します」
 唐突に告げて、彼女の横を通り過ぎようとすると
「もう少し、お話しませんか?」
 と、引きとめられた。
 驚いて、彼女の顔を見る。
 微笑みながら俺を見つめる瞳は黒曜石のように綺麗に輝き、少しはにかんだような表情で、小首を傾げる素振りがとても可愛い。
 一瞬言葉を失って、視線を彷徨わせていると、彼女はクスッと笑って
「今日はもう遅いですね。明日、お会いできますか?」
 と、訊ねてきた。
「…あっ……えっと…はい…」
 あいまいに返事をする俺に、「じゃあ、明日」と笑って、彼女は名前も告げずに去って行く。その後姿を暫く見送ってから、俺は薄暗くなった砂利道を、伯母の家へと帰って行った。

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