スポンサーサイト

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Guide
  •  …この記事と同じカテゴリの前後記事へのページナビ
  •  …この記事の前後に投稿された記事へのページナビ
         
風とともに  ←風とともに 【--年--月】の更新記事一覧 →風とともに  風とともに
  • Edit
  • TB(-)|
  • CO(-) 
 
 

風とともに

風とともに

 翌日、昼過ぎに彼女と出会った場所へと赴く。
 考えてみれば、明日というだけで時間も場所も決めておらず、いつどこへ行けばいいのかもわからなかったが、とにかく昨日出会った所へ行けばどうにかなるだろうと、いい加減な考えで家を出た。
 暫くその畦道で彼女を待っていると、いつの間にやってきたのだろう、すぐ後ろから遅くなってごめんなさいと彼女の声が聞こえる。
「いえ、僕もさっき来たとこですから」
 振り返ると、白いワンピースに身を包んだ彼女が、恥ずかしそうに微笑んでいた。
「…あの…どこか行きますか? って、言っても、どこに何があるかわからないんですけどね」
「いいえ、ここで」
「ここって、ここですか?」
「ええ、ここで。座りません?気持ちいいですよ」
 彼女は風でスカートの裾が捲れないように気遣いながら、田んぼを見下ろす位置に腰を下ろした。俺も、その横に並んで腰を下ろす。
 晴れ渡った空に、鳥が何羽か飛んでゆく。
 農作業は終わったのだろうか畑にも田んぼにも人の姿はなく、辺りは静かで、まるでこの世に彼女と二人きりになったような錯覚に陥る。
 何も言わずただ遠くを見つめている彼女の横顔を、俺はそっと盗み見るように見つめていた。
「どうして、ここに来たんですか?」
 唐突な彼女の質問に、答えることができずに口籠る。
「東京から来たんでしょう?」
「……どうして?」
「どう見てもこの辺りの人には見えませんから」
 俺は苦笑いを浮かべた。
「そう言うあなたも、この辺の人には見えませんよ」
「私は……私も、東京からです」
「家はどこですか?」
「……家?」
「ええ、この村ではないようなことを、昨日言ってたでしょう?」
 少し困ったような表情を見せて、暫く思案したのちに
「山向こうの、病院にいるんです」
 と、おしえてくれた。
「病院?」
「はい」
「入院なさってるんですか?」
「……そう……」
 どこかが悪いようには見えなかったが、こんな田舎の病院に入院しているのなら、呼吸器の病気かもしれないと、勝手に想像してそれ以上は訊かないことにする。
「先生はどうしてここに来たんですか?」
「えっ?先生って……?」
「お医者さまでしょう?」
「……なぜ?」
 職業を言い当てられて驚くと同時に不信感が募る。
 東京のどこかで彼女と会ったことがあるのだろうか? 
まさか、俺がいた病院の患者だったのだろうか?
記憶の奥まで探ってみるが、思いだすことはできない。というよりも、確かに初対面なのだ。
 俺の表情が変わったことに気が付いたのか、彼女はいたずらっこのような笑顔を浮かべると、細い指で顎を軽くつつきながらその理由を言った。
「だって、薬の匂いがするから」
 その言葉を聞いて、ハッとする。
 
『先生が来るとすぐわかるよ。だって、薬の匂いがするから』

 幸平君が俺によく言ってた言葉。
「……どうして、それを……?」
「……?」
 彼女は俺の質問の意味がわからずに、また小首を傾げて俺を見る。
「……ああ、すみません。よくそう言われたので、どうしてあなたがそのことを知っているのかと……」 
 ふっと目を細めて薄く笑うと、彼女は視線を逸らして遠くを見た。その笑顔が俺の心の琴線を揺らす。
 なぜだろう? この懐かしいような、物悲しい気持ちになるのは。 
「……あの」
「はい?」
「お名前を訊いてもいいですか?」
 気を取り直して訊ねてみる。
「……さち……」
「さち、さん……ですか?」
「はい、しあわせの幸です」
「幸さん」
「はい」
「いい名前ですね」
 名前を褒められたことが嬉しかったのか、彼女はにっこりとほほ笑んでありがとうと礼を言った。そして、俺が一番訊かれたくないことを、彼女は俺に訊いた。
「先生は、どうしてここに来たんですか?」
 答えることなんてできない。できる筈がない。遊びに来たと適当にごまかそうかと思ったが、彼女の視線があまりにも真剣で、嘘をつこうとした俺はしどろもどろになる。
 そんな俺を見て、彼女はクスッと笑うと、立ち上がって俺に手を差し出した。
「先生、滝を見に行きませんか?」
「滝? こんなところに滝なんかあるんですか?」
「小さいけれど、静かないいところですよ。行きましょう!」
 彼女は俺の腕を掴むと、山のほうに歩きだした。
 まあ、まだ時間はあるし、幸平君への土産話になるかもしれないと、素直に彼女に着いていくことにする。
 行く道、彼女は自分の話をぽつりぽつりとしてくれる。
「私は生まれたときから病気だったんです。5歳まで生きられないとお医者様に言われていました。そんな5歳のある日、大きな発作を起こして、両親はこれで終わりだと思ったそうです。でも、そこで一人のお医者様に出会って……」
 俺は何も言わず、黙って次の言葉を待った。
「そのお医者様は一生懸命治療にあたって下さって。お陰で一命を取りとめて、私はまた生きることができるようになったんです。そのお医者様には本当に感謝しています」
「……よかったですね。いいドクターに出会えて……」
 俺は言いしれない悲しみが湧きあがってくるのを、押さえることができなかった。
 彼女と幸平君はもしかしたら、同じ病気だったのかもしれない。
 もし幸平君もそのドクターに会っていたら、死なずに済んだのかもしれない。
「……あなたは、よかったですね。いいドクターに出会えて」
「はい。心からそう思います。その先生のおかげで、私は命を永らえて、経験できなかった筈のことを経験することもできたのですから」
 真っ直ぐに俺を見つめてくる視線が痛い。まるで、自分のことを攻められているような気がする。
 彼女は俺が幸平君を殺してしまったことを知らないのだ。しかし、全てを見透かしているような、涼しげな眼差しに、俺はいたたまれなくなった。
「…すみません。今日はもう、帰ります」
「先生? 私、何か気に障ること言いましたか?」
 心配そうに訊ねる彼女の瞳が潤んでいる。今にも泣き出しそうなその表情に背を向けると、俺は足早にその場を去った。
 風に靡く彼女のスカートの白が、いつまでも目の奥に焼き付いて離れなかった。




人気ブログランキングへ
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
ぽちっと愛のクリックを❤
竹の子ロゴ 七夕
関連記事
スポンサーサイト

Guide
  •  …この記事と同じカテゴリの前後記事へのページナビ
  •  …この記事の前後に投稿された記事へのページナビ
         
風とともに  ←風とともに 【2011年06月】の更新記事一覧 →風とともに  風とともに
 

~ Comment ~

  ※コメントの編集用
現在シークレットコメントは受け付けていません。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

MENU anime_down3.gif

同じカテゴリの記事が一覧表示されます
同じタグの記事が一覧表示されます
更新月別の記事が一覧表示されます
キーワードで記事を検索
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。