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SEACRET MIND 1

SEACRET MIND 1

 あと10分ほどで医師の勤務交代の時間になる。
 外科の当直医はすでに到着していて引き継ぎも終わっているが、内科の当直医がまだ現れない。当番表を見ると、新任の医師の名前が書かれている。医師免許を持ってくるからコピーを取らせてもらうようにと、人事の田所から出勤してすぐに言われていた。しかし、本人が来ないことにはどうしようもない。
 卓上の電話が外線からの着信を告げる。ディスプレイを見ると、携帯から掛けられたものだ。まさか救急隊からかと気が焦る。今日の居残り当番は確か佐藤内科部長の筈だった。
 時計を見ると、すでに午後8時を5分ほど過ぎている。今頃イライラしながら当直医の到着を待っているだろう。
 佐藤は50歳になるベテランの内科医で、専門は糖尿病だ。患者にも職員にも厳しく、几帳面で、時間には特にうるさい。
 当直医が来ない今、内科の急患が来れば佐藤に頼むしかないが、このような状況でこの上なく不機嫌な佐藤に、診察を依頼したときの反応を思い起こして、本間圭吾は憂鬱になった。
 軽く舌打ちしながら受話器を取る。
「はい。島津病院です」
「すみません。当直医の鷹野です。今タクシーの中にいるのですが、財布を失くしてしまったらしくて。申し訳ありませんが、お借りできないでしょうか?」
「はっ?」
「ですから、財布を失くしてしまって、タクシー代が払えないんです。立て替えていただけないでしょうか?」
 漸く、鷹野の話の意味を理解した本間は、今度は心の中で舌打ちした。
「わかりました。おいくらですか?」
「900円です」
「わかりました。正面玄関ですね?」
「そうです。よろしくお願いします」
 本間はポケットに財布が入っていることを確認すると、急いで病院の正面玄関に向かった。
この時間すでに外来の診察は終了しているために、玄関は施錠してある。横の通用口から表に回って、タクシーの止まっているところまで走って行く。運転席の窓越しに支払いを済ませると、後部座席から一人の男が降りてきた。
 スラリとした長身、色白の肌と対照的な漆黒の髪は、癖毛なのか緩やかなウエーブで、少しきつい印象を与える端正な顔を柔らかくしている。綺麗な弧を描く眉、切れ長の目、瞳の色は髪と同じに黒く、黒曜石のように輝いている。とおった鼻筋の先にはキリッと引き締まった形のいい唇が、口角を少し上げて微笑んでいた。
「初めまして。鷹野です」
 声を掛けられて、本間は暫くの間、鷹野に見とれていることに気がついた。
 …なんで俺は男なんかに見惚れていたんだろう?…
 急に恥ずかしくなって、慌てて挨拶を返す。
「は、初めまして。医事課の本間です」
 心臓がいつもの倍の速さで動いている。
 10月の半ば、夜風は少し冷たいくらいなのに、なぜか頬が熱い。
 本間はそんな自分に気づかれないように、早口で言葉を続けた。
「佐藤先生がお待ちです。急いで引き継ぎをお願いします」
「わかりました。案内をお願いできますか?」
「こちらです。この時間、正面玄関は閉まっていますので、横の通用口からお入り下さい。当直室は2階にあります。医局は3階です。居残り当番の先生は、外来診察が終わりましたら、医局で待機されますので、そちらで引き継ぎを。夕食は当直室に準備しております。当院は外科と内科の救急を受け付けていますので、外科の先生1名、内科の先生1名で当直していただいています。病棟は主に2階が内科病棟、3階が外科病棟ですが、入院患者さんの3分の2は内科の患者さんですので、3階にも内科の患者さんが入院されています。4階は手術室とリカバリールーム、それとカンファレンスルームがあります。引き継ぎが終わりましたら、病院内をご案内します」
 そこまで説明して3階の医局に到着した。
 本間はノックしてからドアを開ける。
失礼します。佐藤先生、内科当直の鷹野先生がお見えになりました」
 予想通り不機嫌な顔つきで、佐藤がこちらをじろりと睨む。
「これは、随分と早いお越しですな」
「申し訳ありません。財布を失くしてしまいまして」
 鷹野は臆せずにこやかに応える。
「君は相変わらずだな、鷹野君」
「お久しぶりです、佐藤先生。駅に着いてタクシーに乗ろうとしたら財布が無くて。時間は迫ってくるし、財布は見つからないし、どうしようかと思いました」
「で、どうしたんだね?」
「ここまで乗りつけて、こちらで立て替えていただきました」
「本間君、迷惑をかけてすまなかったね。この鷹野君は見かけによらずおっちょこちょいでね。学生時代からちっとも変っておらん」
「あの、佐藤先生と鷹野先生はお知り合いですか?」
「佐藤先生は私の恩師です。今回、内科の当直医を探しているからと声を掛けていただいて」
「そうだったんですか」
 本間は驚いていた。あまり人付き合いのよくない佐藤が、自分の教え子を当直医として紹介することなど考えられないことだった。
「本間君、この鷹野君はね、まだ若いが優秀だ。糖尿病の専門医になりたいと言うので、ゆくゆくはこの病院に出向させて、私のもとで研修させたいと思っている。よろしく頼むよ」
 珍しく佐藤医師が頭を下げるのを見て、本間は焦った。
「そんな、佐藤先生。私なんかに頭を下げないで下さい。鷹野先生、こちらこそよろしくお願いします」
 と本間も佐藤と鷹野に頭を下げた。
「鷹野君、本間君は優秀な診療情報管理士でね、この病院の患者や、薬剤情報、保険点数などあらゆることに精通しているから、わからないことがあれば何でも訊きなさい」
 人を褒めることをしない佐藤から褒められて、本間はくすぐったい気持がした。けれどその裏側で、鷹野がいずれこの病院に常勤として赴任して来ることを知って、嬉しく思っている自分に戸惑ってもいた。


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